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スタジオジブリ「風立ちぬ」の二郎役の声優を務めた庵野秀明氏が「下手すぎ」「ひどい」との評価もある中、私なりの感想を書いてみました。

「風立ちぬ」の二郎とは?

宮崎駿監督の長編最後の作品となった「風立ちぬ」の主人公である堀越二郎。この人物は堀辰雄著作の「風立ちぬ」である主人公「堀越二郎」という実在の人物をベースに描かれています。

映画の中での堀越二郎は少年時代、飛行機という乗り物に強く惹かれています。

 

映画の冒頭、夢の中で自作の飛行機に乗り込み、自分が暮らす街の上空を飛ぶシーンは、いかに二郎が飛行機に憧れていたかが伝わってきます。しかし二郎は子どもの頃から視力が弱く、飛行機のパイロットとしては致命的な欠点を抱えていました。

そんな時、イタリアの航空機設計士であるカプローニという人物を知り、夢の中で触れ、パイロットから飛行機作りを目指すこととなりました。二郎は頭脳は明晰でありながら努力家。一度「これ」と決めたらそこに向かっていく真っすぐな性格の二郎は自分の夢へと邁進し、次第に夢を叶えていきます。

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菜穂子との出会い

三菱重工業での航空機技師時代、持ち前の努力とセンスが評価され戦闘機の設計を任されるという大抜擢を受けます。しかし設計した戦闘機は失敗に終わり、二郎は軽井沢のホテルで休暇を過ごすことに。そこで菜穂子と運命的な再会します。

 

二郎は学生時代に一度、菜穂子と電車の中で出会っています。電車の上で風に飛ばされた二郎の帽子を菜穂子が身を乗り出してキャッチ。お礼をいう二郎に対し菜穂子は「Le vent se lève(風立ちぬ)」と答え、二郎が「il faut tenter de vivre(いざ生きめやも)と返す場面は印象的。

 

しかし菜穂子は二郎のことをずっと覚えていたのに対し、二郎は菜穂子のことをあまり覚えていなかったように思います。これは最初の出会いの時、菜穂子がまだ12、3歳の女の子だったからだということと、二郎が飛行機作りに没頭する日々を送っていたからだと思います。

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二郎と菜穂子

活発で天真爛漫でありながら、どこか静謐な雰囲気を纏う菜穂子に二郎は加速的に惹かれていきます。これは想像ですが、二郎にとって菜穂子は異性として初めて心を動かされた女性だったのではないでしょうか?

そんな2人は急速に惹かれ合い、そして軽井沢で二郎は菜穂子へプロポーズ。その潔さからも「これ」と決めたら迷いなく突き進んでいく二郎像が滲みでています。

 

しかしそんな2人に「結核」という病気が影を落とし始めます。

結核と向き合う2人

二郎は相変わらず飛行機作りに没頭しながらも、菜穂子のことを想い続けます。結核が悪化して菜穂子の家を見舞いに行く時、電車の中でボロボロ涙をこぼしながら課題に取り組む場面は、二郎の頭の中で飛行機作りと菜穂子のことが葛藤している心情がよく伝わってきました。

 

二郎と一瞬であっても一緒に暮らしたい菜穂子は、無理を押して高原治療を出て二郎のもとへ向かいます。そして二郎の先輩である黒川氏の家で結婚。

2人の短い結婚生活の場面は、二郎の「一日一日を大切にしている」という言葉どおり、とても親密で暖かいものが良く伝わってきました。

2人の関係

やがて菜穂子の病状は悪化し、黒川家を後にする菜穂子。二郎が設計した戦闘機のテスト飛行の時、自分が設計した飛行機が空を舞う中で菜穂子の最期を感じ取る沈黙の場面は、2人がいかに心で通じ合っていたかが伺えます。

 

ラストシーン、夢の中に出てきた菜穂子に対して涙をこぼしながら「ありがとう」という言葉を伝える場面は、二郎が初めて感情をむき出しにするシーン。私は本作品を見て、二郎という人物にとても好感を持ちました。

飛行機という存在に向き合いながら、淡々と自分の道を歩く姿に惹かれいる自分がいました。宮崎駿監督の長編最期の作品は、私の心に強く残る作品となりました。

二郎役の声優を務めた庵野秀明氏

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「風立ちぬ」で二郎役に抜擢されたのはアニメーション監督の庵野秀明氏。

スタジオジブリ作品ではここ最近、主人公に俳優や芸能人を声優として起用することが多かった中、声優初デビューとなる庵野氏が二郎役を務めることを知って驚きました。

 

映画を見るまで庵野氏が声優を務めることでどういう雰囲気になるのか予想もつきませんでしたが、庵野氏が務める二郎の声を始めて聞いた時「何だかちょっと変な感じ。変な感じだけど悪くないかも」というのが最初の印象。

 

映画が進んで行く中でその「変な感じ」はどこかへと消え、全く違和感はなくなり、それどころかその淡々とした抑揚のない声は二郎の声とベストマッチだと思いました。

エヴァンゲリオンの監督でも庵野秀明氏とは?

私は庵野氏のことをそこまで知りませんでした。

 

もちろんエヴァンゲリオンの監督とは知っていますが、庵野作品を一度もきちんと見たことはありません。なのでアニメーション監督としての庵野秀明はよく知らないのですが、庵野氏がアニメと特撮好きなことと、宮崎駿監督の下でアニメーションを学んでいたことは以前から知っていました。

 

「風の谷のナウシカ」では巨神兵の制作を担当したり、あとは宮崎駿監督の作品のロケハンに付いて行ったりと、スタジオジブリとりわけ宮崎駿監督から大きな影響を受けているのだと思います。

 

またアニメーションだけでなく「ラブポップ」や「式日」など実写の監督でもあり、俳優としていくつかの映画作品にも出演されています。(印象に残っているのは石井克人監督作の「茶の味」でアニメーション監督役として出演されていた役)アニメーターであり、監督であり、時に俳優、時に声優と変幻自在でありながら、どこか飄々とした雰囲気を醸し出す庵野秀明氏は、捉え所のなく得体の知れない不思議な生きもの。

 

ちなみに奥さんは漫画家である安野モヨコさん。

セリフが「棒読みでひどい」との声があがる庵野秀明氏の実力

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本作品「風立ちぬ」が上映されてから、この映画に対する評価は「良かった」という人と「良くなかった」とはっきりと二つに分かれたような気がします。

評価を判断する上で、二郎役を演じた庵野氏の起用がキーになったという人も多いのではないでしょうか。すなわち庵野氏の声優起用が「成功だった」と思った人と「失敗だった」という意見がそのまま映画の評価になってしまっていること。

 

私自身は庵野氏が今回の二郎役を務めたからこそ、この「風立ちぬ」が強く心に残る作品となったと言っても過言ではありません。それくらい僕は「ハマり役」だったと思います。

最初、庵野氏による二郎の声を聞いた時「不思議な感じだな」と思いました。たぶんそれはあの独特の抑揚のないトーンに馴染みが無かったからだと思います。しかし聞いているうちに庵野氏の声や、あの独特のトーンが二郎という人柄にぴったりと寄り添っているように感じました。

庵野氏の独特の雰囲気

そして庵野氏の声を聞きながら、私はこの独特の雰囲気を以前どこかで聞いたことがあるような気がしてなりませんでした。しばらくしてそれが小津安二郎監督の作品だということに思いあたりました。

「晩春」「東京物語」「麦秋」など日本の映画史に名を残す名監督の作品の中で、役者さん達が庵野氏のように感情を入れずに淡々と会話を繰り広げていくのです。(私は小津監督の大ファンでもあります)その中でも庵野氏のトーンは、俳優の笠智衆さんによく似ていると思います。

そのことに気付いた途端、もしかして庵野氏は笠智衆さんを意識して今回の声優に挑んだのではと思うほどでした。

失敗の声も分かるが・・・

その一方、庵野氏が声優を務めたことで「風立ちぬ」は「失敗だった」と評価する気持ちも分かります。

庵野氏のセリフは感情もあまりこもっていないし、声も若々しくなく、やや鼻にかかっているし、淡々とセリフを言っている姿に多くのジブリファンは、主人公にどうして庵野氏を選んだのかと疑問を持つのではと思います。

 

私も声優として庵野氏が「上手い」声優だとは思いません。でもだからと言って、もっと力量のある声優さんが二郎役を務めたからといっても、僕はおそらく安野氏以上にマッチしなかったのではないかと思います。

なぜ庵野秀明氏が起用されたのか?その理由を推察

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私は「風立ちぬ」のメイキングの映像の中で、宮崎駿監督がインスピレーションで庵野氏を起用した話を聞きました。

 

宮崎駿監督最期の長編、そしてそれも主人公に、初声優となる庵野氏を抜擢することは結構ギャンブルだったのではないかと思います。

そんな賭けに踏み切ったのには、二郎という人物像に大きな要因があったからだと思います。飄々とマイペース、そして淡々と自分の目的に進んでいく真っすぐな性格から、感情のこもった声優さんより、朴訥としていて、どちらかというと感情の読み取りにくい声の方が二郎にマッチすると宮崎駿監督の目に映ったのではないかと思います。

 

庵野氏の風貌も雰囲気も、どことなく二郎に似ていると思いますし、もしかすると宮崎監督も最初から二郎というキャラクターを構想する時点で、すでに庵野氏の顔が浮かんでいたのではないかと思いました。

僕は今回の庵野氏の起用は宮崎駿監督が慧眼の持ち主であったことを再認識する結果となりましたし、最後の長編作品がそのような素晴らしい作品となり、一ファンとして大変嬉しく思います。

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二郎に合った味のある声

アニメーションにあって、声というのはその人物に命を吹き込むような存在だと思います。

声によって人物の印象はがらりと変わります。「風立ちぬ」の二郎役を務めた庵野氏の声はかなり個性的で独特な雰囲気を持つ言わば「味のある声」。その雰囲気が好きになるのか嫌いになるのかはっきり分かれるのも分かります。これは好みの問題だからです。

 

先述したように庵野氏よりも技術的に上手い声優さんはたくさんいますし、また庵野氏よりも話題を集めることのできるような俳優や芸能人の方を声優に起用することも出来たと思います。

でもそれが二郎にふさわしいかと言えば、必ずしもそうだとは思いませんし、本作品を見終えた際、頭の中に二郎の声の余韻が残るほど庵野氏の声は二郎にふさわしいものだったと思います。

 

かなり個性の強い声やトーンなので幅広い役をこなすことは難しいと思うのですが、またどこかで「声優、庵野秀明」のキャラクターを見ることができたらなと思います。